石橋秀仁(zerobase)書き散らす

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厚労省はドワンゴの「入社受験料」制度」を禁止するなら、代替となる市場設計案を提出すべきだと思います

ドワンゴの入社受験料中止求める 厚労省、16年採用から - 47NEWS(よんななニュース)

金銭的コストが時間的コストに振り替わる

"金もうけが目的ではなく本気で入社したい人に受験者を絞り込むため" なので、代替策として「何らかのコストを課す」方式が採用されるでしょうね。まあ時間的コストでしょうね。とても時間がかかることをやらせるとか。例えば、

といったこと。それによって選考企業は就職活動者に時間的コストを課すことができます。

時間的コスト以外の方法もあります。例えば精神的コスト。「マジでヤバい就活生」的なイタい自己PRサイトを作らせる、といったことが考えられるわけです。それで「本気度」を測ることはできます。しかし、それこそ人権的・プライバシー的な問題になってくるでしょう。厚労省としても、さらにNG度は高いと判断せざるをえないでしょう。

というわけで、時間的コスト系の施策が妥当かなと思います。

就職活動者のエントリー負担を減らす観点で

リクルートオープンES で就職活動者のエントリー作業負担を減らそうとしています。ドワンゴの入社受験料は、これと相性がよいと思います。

入社受験料制度は、就職活動者に受験料を支払わせることによって、「本気のエントリー」であることを顕示させます。エントリーする時点で、すでに就職活動者は本気度を示しています。ですから、エントリー自体はオープンESのような「ワンクリック」で済みます。「足切りのための本質的でない時間的コスト」をかけさせる必要はありません。

一方、入社受験料制度がなければ、どうなるでしょうか。オープンESの仕組み自体は、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」式の闇雲なエントリーを増やかねません。採用企業としては、選考コストを下げるために、何らかの足切り手段が必要となります。

そこで入社受験料制度が禁止されてしまえば、ほかの足切り手段が必要になります。

これまで就職活動者は「手書きのエントリーシート」で本気度を示していましたが、「手書き」なんてまったく本質的ではないコストです。オープンESの登場は、就活エコシステムの進化として納得できます。「手書き」という非本質的なコストを取り除くので、歓迎できます。

しかし、オープンESによってエントリー負担が下がることで、採用企業の選考負担は向上します。言い換えると、就職活動者のエントリーコストが、採用企業の選考コストに転嫁されるのです。やむをえず、何らかの足切り手段が必要となります。

冒頭であげたように、

といった時間的コストの設計が考えられます。これらは「まったく本質的でない時間的コスト」ではありません。時間を有意義に使うことが出来ます。前者は「応募者をよりよく知る手段」になりますし、後者は「企業についてよりよく知ってもらう手段」になります。少なくとも「手書きのエントリーシート」よりは、はるかにマシな時間的コストの課し方です。

おわりに

この問題はミクロ経済学や市場設計のような分野に関係してきます。ぼくは情報アーキテクトなので「アーキテクチャ」の問題にも見えています。

「本気度」という情報は就職活動者の内面にしかありません。つまり情報の非対称性があります。そこで、就職活動者のシグナリング行動として「手書き」が行われていました。もし「手書き」をやめるなら、別のシグナリング手段が必要です。それが「受験料」でしたが、禁止されそうです。ならば、さらに別のシグナリング手段が必要なのです。

厚労省は、ドワンゴの入社受験料を禁止するなら、代替となる市場設計案を提出すべきだと思います。民間の創意工夫を官が潰すなんて、明確な市場制度設計目標がない限り、正当化できません。そもそもフォロアーもほとんどいないわけだし、せめて100社くらい同じことをやった段階になってはじめて規制するくらいでないと。民間の創意工夫、つまりイノベーションを、官が潰すのは承服できかねます。